バックオフィス実務

介護の夜勤手当の決め方|相場の調べ方・深夜割増との違い・割増賃金の基礎への入れ方

デスクライトが照らす夜の机

結論(この記事でわかること)

ミナ

夜勤手当を払っているので、深夜割増はその中に含まれていると思っていました。

ジムチョー

別のものなんだ。深夜割増は法定で、22時から5時の労働に25%以上。夜勤手当は事業所が任意に設けた「夜勤という勤務形態への対価」。まず深夜割増を法定どおり計算する仕組みを作って、その上に夜勤手当を置こう。

ミナ

深夜割増は法律で決まった土台で、夜勤手当はその上に事業所が乗せるもの、という順番ですね。

ジムチョー

そういうことだね。夜勤手当も処遇改善手当も割増賃金の基礎に入るから、残業代の計算にまで効いてくるんだ。給与ソフトの設定まで含めて確かめておこう。

介護事業所の手当のうち、給与計算で最も間違いが多いのが夜勤手当と処遇改善手当で、原因は法定の割増と任意の手当の混同にある。

項目性質金額の決め方割増賃金の基礎
深夜割増賃金法定(労基法第37条第4項)22時〜5時の労働に25%以上—
夜勤手当任意事業所の規程(1回いくらなど)入る(1回いくらの手当は、労基則第19条に沿って時間単価に直して加える)
処遇改善手当任意(加算の月額賃金改善要件で、毎月の支払いが要る)加算Ⅳ相当額の2分の1以上を、基本給または決まって毎月支払われる手当で入る
資格手当任意規程入る
通勤手当・家族手当・住宅手当など任意規程除外できる。ただし通勤の費用や距離、扶養家族の数、住宅の費用に応じて額が決まる場合だけで、一律の支給なら入る

設計の順番は、まず深夜割増を法定どおり計算する仕組みを作り、その上に夜勤手当を「夜勤という勤務形態への対価」として置く。夜勤手当を深夜割増の代わりにする運用は、要件を満たさなければ未払いになる(要件は後の節で説明する)。処遇改善手当の設計は処遇改善加算を給与にどう反映させるかで扱っているので、この記事では夜勤手当を中心に、両方の手当が割増賃金にどう影響するかを整理する。

夜勤手当の設計

病院のナースステーション
ミナ

夜勤手当の額は、いくらにするのが正解ですか?

ジムチョー

法定の基準はないんだ。近隣の求人を10件見て中央値を取り、夜勤の負担と回数の上限で調整する。求人票で比較される数字だから、相場から離れすぎないことが大事だよ。

ミナ

夜勤の回数と1回の手当の額は、どう関係してくるんですか?

ジムチョー

回数の上限を低く抑えるなら、1回の手当を厚くするんだ。夜勤専従を置く場合は、専従の単価を別に設計しよう。

金額の決め方

夜勤手当の額に法定の基準はない。相場は、地域、サービスの種類、夜勤の形(16時間夜勤か8時間夜勤か)で違うので、この記事では数字を示さず、自社の地域の求人や公的な調査で確かめる。決めるときの基準は3つ。

  1. 地域の相場。求人票で比較される数字なので、近隣の施設の求人を10件見て中央値を取る
  2. 夜勤の負担。16時間夜勤か8時間夜勤か、1人夜勤か複数か、見守り機器の有無
  3. 夜勤の回数の上限。月4〜5回を上限にするなら手当を厚く、夜勤専従を置くなら専従の単価を別に設計する

相場を調べるときは、求人票の額が「1回あたり」か「月あたり」か、16時間夜勤か8時間夜勤か、深夜割増を含む額かを揃えて比べる。

夜勤手当を深夜割増に充てる場合

夜勤手当の一部を深夜割増の支払いに充てる設計は、名称ではなく中身で判断される。次の2点を満たす場合に限られる(厚生労働省 平成29年7月31日 基発0731第27号・基監発0731第1号)。

  1. 賃金規程や労働契約で、夜勤手当のうち深夜割増に当たる部分(相当する時間数または金額)を、通常の賃金に当たる部分と区別して判別できる
  2. 深夜割増に当たる部分の金額が、実際の深夜労働時間で計算した法定額を下回るときは、差額を賃金支払日に追加で払う

区別のない定額の夜勤手当は、深夜割増を払ったことにならない。判別の書き方は社労士に確認して賃金規程に書く。

割増賃金の基礎への算入

夜勤手当は、割増賃金の基礎から除外できる7つ(家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金。労基法第37条第5項・労基則第21条)に当たらないので、基礎に入れる。除外できるのはこの7つだけで、家族・通勤・住宅の手当も、扶養家族の数、通勤の費用や距離、住宅の費用に応じて額が決まる場合に限られる。

1回いくらの手当は、月によって合計額が変わる。ここでは、その月の夜勤手当の合計を月の所定労働時間で割った額を、時間単価に加えて割増を計算する例で示す。1回いくらの手当を時間単価に直す方法は、賃金の定め方に応じて労基則第19条が定めていて、換算の仕方で単価が変わる。日ごとの手当として換算するか月の合計で換算するかを、社労士か労基署に確認して賃金規程に書いておく。

項目値
基本給の時間単価1,500円
夜勤手当 6,000円 × 4回24,000円
月の所定労働時間160時間
夜勤手当の時間単価24,000 ÷ 160 = 150円
割増の基礎となる時間単価1,650円
残業10時間の割増賃金1,650 × 1.25 × 10 = 20,625円

基本給だけで計算すると 1,500 × 1.25 × 10 = 18,750円で、1,875円の未払いになる(残業が毎月10時間と仮定)。10人で年間225,000円。

ミナ

夜勤手当を割増の基礎に入れ忘れると、残業代が少なく出てしまうんですね。

ジムチョー

そうなんだ。夜勤手当は基礎から除外できる手当に当たらないから、給与ソフトで「割増基礎に含む」になっているか確かめておこう。

夜勤専従の設計

夜勤専従は、例えば16時間夜勤(休憩2時間)を月10回程度行う働き方(拘束160時間、実働140時間)。設計で押さえる点は次のとおり。

  • 深夜業を含む業務に常時従事する職員(深夜業を週1回以上、または月4回以上行う業務)には、配置替えの際と6か月以内ごとに1回、健康診断(特定業務従事者の健康診断)が要る(労働安全衛生規則第45条第1項・第13条第1項第3号。深夜業の目安は昭和23年10月1日基発第1456号)。上の計算例の月4回の夜勤者も、この目安に当たる
  • 夜勤明けの休日の並びを就業規則で決める(16時間勤務の翌日は勤務させない等)
  • 夜勤専従の時給や手当は、日勤と同じ「基本給+夜勤手当」ではなく、専従の単価表を別に作るほうが管理しやすい
ミナ

夜勤専従の人も、日勤の人と同じ「基本給+夜勤手当」で計算すればいいですか?

ジムチョー

専従は勤務の形が日勤と違うから、専従の単価表を別に作っておくと管理しやすいよ。

計算例:夜勤手当を6,000円から8,000円に上げた場合

夜勤者10人、1人月4回。法定福利費率15%、残業は1人月10時間、基本給の時間単価は1,500円と仮定する。

項目6,000円8,000円差
夜勤手当(年)6,000 × 4 × 10 × 12 = 2,880,000円3,840,000円960,000円
法定福利費(夜勤手当の増加分に15%)432,000円576,000円144,000円
割増賃金への影響(残業月10時間分のみ。深夜割増の増加分は含めない)手当単価150円分200円分約75,000円
合計約1,179,000円/年

年間118万円の人件費増で、夜勤者の年収は1人96,000円(手当分のみ)上がる。採用競争力と離職率への効果を、紹介会社で1人採用し直す手数料と比べる。厚生労働省が公表している介護分野の平均手数料(令和5年度実績)は1人あたり55.1万円なので、年間118万円は採用し直し約2.1人分にあたる。手数料だけで見ると、離職を3人防げれば元が取れる計算になる(求人広告費や教育のコストは含めていない)。

ミナ

2,000円上げると年間118万円。夜勤者1人の年収は96,000円しか上がらないのに。

ジムチョー

法定福利費と割増賃金への影響が乗るからね。ただ紹介で1人採用し直すと手数料は平均で55.1万円かかるから、防げる離職の人数と比べて判断するといいよ。

ミナ

上げたあとで効果があったかどうかは、どう確かめればいいですか?

ジムチョー

年1回、相場と離職率を見て手当額を見直すといいよ。改定したときの根拠も記録に残しておくと、次の見直しで比べやすいんだ。

処遇改善手当との組み合わせ

木のパズル
ミナ

処遇改善手当も、夜勤手当と同じように回数で変えてもいいんですか?

ジムチョー

処遇改善手当は月額賃金改善要件を満たすために、定額で設計しておくと確実なんだ。加算が減ったときに備えて、規程に「加算の算定状況に応じて改定」と書いておこう。実際に下げるときは労使の合意が要るけどね。

処遇改善手当は加算を原資にする手当で、月額賃金改善要件(加算Ⅳ相当額の2分の1以上を、基本給または決まって毎月支払われる手当で払う)を満たすため、定額で設計しておくのが確実。毎月必ず払うなら額が変わる手当も使えるが(令和8年度Q&A 問1-3)、支給の有無が月で変わる設計は使えない。令和8年度は、令和7年度から増えた加算額(2026年6月以降の加算率の引上げ分を含む)を新たな賃金改善に充てることになっていて、ベースアップ(基本給か毎月の手当を一律に上げる形)が基本なので、増えた分は手当の額を上げて配る設計にする(令和8年度基本通知2(2)。難しい場合は一時金などとの組み合わせも可)。夜勤手当と同じく割増賃金の基礎に入る。

項目夜勤手当処遇改善手当
原資事業所の収入全体処遇改善加算(加算の額以上を賃金改善に充てる)
対象夜勤をした職員介護職員を中心に、介護従事者全体に配分可
金額の変動回数で変動定額(一時金で調整)
加算が減ったとき影響なし規程に「加算の算定状況に応じて改定」と書いておく(実際に下げるときは労使の合意が要る)

2つの手当を合算して「介護手当」のような1本にまとめると、処遇改善加算の実績報告で加算分を切り分けられなくなる。手当は目的ごとに分けて、明細に別項目で出す。

実務の手順(誰が・いつまでに・どの帳票で)

ミナ

手当の額を決めたら、すぐ給与に反映していいですか?

ジムチョー

先に賃金規程へ額と支給要件、割増賃金の計算方法を書いて、常時10人以上の事業所なら就業規則変更届を労基署に出すんだ。職員への周知まで済ませてから、給与システムを設定しよう。

時期作業担当帳票
設計時近隣の求人10件で夜勤手当の相場を調べる事務長相場調査表
設計時賃金規程に夜勤手当の額・支給要件・割増賃金の計算方法(時間単価への換算、深夜割増との関係)を明記事務長・社労士賃金規程
規程改定後常時10人以上の事業場は、就業規則変更届(意見書添付)を労基署に提出。職員に周知事務長就業規則変更届
給与システム設定時夜勤手当を「割増基礎に含む」に設定し、賞与の算定基礎は規程どおりに設定給与担当支給項目設定
毎月夜勤回数の集計と手当の計算。深夜割増は勤怠から自動計算労務勤怠集計表
6か月以内ごと深夜業を含む業務に常時従事する職員の健康診断(特定業務従事者健診)労務健診記録
年1回相場と離職率を見て手当額を見直す事務長見直しの記録

よくあるつまずき

ミナ

夜勤手当と処遇改善手当をまとめて「介護手当」にすると、明細がすっきりしませんか?

ジムチョー

すっきりはするけれど、処遇改善加算の実績報告で加算分を切り出せなくなってしまうんだ。手当は目的ごとに分けて、明細に別項目で出そう。

ミナ

人が足りない月に、夜勤明けの翌日に日勤を入れる場合は?

ジムチョー

それは避けたほうがいいね。特定した労働日や労働時間は任意に変えられない決まりだし、健康確保の面でも問題になるからなんだ。夜勤明けの休日の並びは、就業規則で決めておこう。

  • 夜勤手当に深夜割増を含めたつもりで別途払っていない。夜勤手当のうち深夜割増に当たる部分を賃金規程などで判別できない、または実際の深夜労働で計算した法定額を下回っているのに差額を払っていないと、未払いになる
  • 夜勤手当を割増基礎から外す。除外できる手当ではない。給与ソフトの設定を確認する
  • 夜勤手当と処遇改善手当を1本にまとめる。処遇改善加算の実績報告で加算分が切り出せない
  • 夜勤専従の健康診断が年1回。深夜業を含む業務に常時従事する職員は6か月以内ごとに1回(年2回)
  • 夜勤明けの翌日に日勤を入れる。1か月単位の変形労働時間制では、特定した労働日や労働時間を任意に変えられない。健康確保の面でも問題になる
  • 手当の改定を求人票だけに反映し規程を直さない。規程と実際の支給額が食い違うと、労働条件の明示や就業規則の届出(常時10人以上の事業場、労働基準法第89条)の面で問題になる

経理・管理側の視点

ミナ

経理としては、夜勤手当と深夜割増をどう分けて見ればいいですか?

ジムチョー

夜勤手当は夜勤者を確保するためのコストで、深夜割増は法律で決まったコストなんだ。どちらも含めた夜勤1回あたりの総コストで見ておこう。

夜勤手当は「夜勤者の確保コスト」で、深夜割増は「法定コスト」。経理が見るべきは、夜勤1回あたりの総コスト(基本給+深夜割増+夜勤手当+法定福利費)で、時給1,500円・16時間夜勤(休憩2時間で実働14時間、深夜5時間)・夜勤手当6,000円・法定福利費15%と仮定すると約33,000円((21,000+1,875+6,000)×1.15)。夜勤1回のコストが分かれば、夜勤帯の職員配置を1人増やす判断(特養の夜勤職員配置加算との比較など)が数字でできる。

処遇改善手当は、加算をそのまま賃金に回す通過型のコストなので、夜勤手当とは別に管理し、加算の実績報告で突合できる状態にしておく。

ミナ

夜勤1回あたりの総コストが約33,000円。これが分かると配置の判断に使えるんですね。

ジムチョー

夜勤帯に1人増やす判断が数字でできるようになるよ。処遇改善手当は加算をそのまま賃金に回す通過型だから、夜勤手当とは別に管理しておこう。

出典

記事中の計算例は概算です。実際の算定・請求は自治体および国保連への確認が必要です。制度に関する記述は執筆時点の情報に基づきます。