バックオフィス実務

介護のカスハラ対策が2026年10月から義務化|事業所が整える5つの措置と対応手順

結論(この記事でわかること)

ミナ

利用者さんの家族から、職員が何度も怒鳴られています。どう対応すればいいのか、決まりがありません。

ジムチョー

2026年10月1日から、そういう言動への対策がすべての事業主の義務になるんだ。整える措置は5つで、方針を決めて知らせること、相談窓口、起きたあとの対応、悪質な場合の対処の決め、相談した職員の保護だよ。

ミナ

職員どうしのハラスメント対策とは、別に作らないといけませんか?

ジムチョー

同じ枠で作れるよ。相談窓口や起きたあとの対応はパワハラ対策と同じ形だから、そこに利用者や家族からの言動を含めて、悪質な場合の対処を足せばいいんだ。

介護事業所のハラスメント対策は、3つの義務が重なっている。

義務対象根拠時期
職場のハラスメント(パワハラ・セクハラ・マタハラ等)の防止措置すべての事業主労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法パワハラは2022年4月から中小企業も義務
介護サービス事業者としてのハラスメント対策介護保険の指定事業者運営基準(職場におけるハラスメントの防止のための方針の明確化等)2021年4月から義務。利用者や家族からのハラスメントへの対策は、留意事項通知で推奨
カスタマーハラスメントの防止措置すべての事業主(中小企業も同じ)改正労働施策総合推進法(2025年6月公布)と指針(2026年2月26日公布)2026年10月1日から義務

介護の現場では、利用者や家族からの暴言・暴力・セクハラへの対策が課題になってきた。2026年10月からは、これへの措置が労働施策総合推進法の義務になる。厚生労働省の指針とリーフレットでは、事業主が必ず講じる措置は次の5つの柱(10項目)で示されている。

  1. 方針の明確化と周知。カスハラには毅然とした態度で対応し、職員を守る方針を決めて知らせる。あらかじめ決めた対処の内容(管理者に指示を仰ぐ、できるだけ1人で対応させない、犯罪に当たりうる言動は警察へ通報する、本部と共有する など)も知らせる
  2. 相談体制の整備。相談窓口を決めて知らせ、担当者が適切に対応できるようにする
  3. 起きたあとの迅速で適切な対応。事実の確認、被害を受けた職員への配慮、再発防止
  4. 悪質なカスハラへの対処の方針(抑止のための措置)。特に悪質なカスハラへの対処の方針を決めて知らせ、実行できる体制にする
  5. 相談者の保護。相談者のプライバシーを守り、相談したことを理由に不利益な扱いをしないと決めて知らせる

1〜3と5はパワハラ対策と同じ形で、4がカスハラに特有の措置。相談窓口やトラブル対応の手順は、処遇改善加算の職場環境等要件の⑬(職員相談窓口の設置等相談体制の充実)や⑯(事故・トラブルへの対応マニュアル等の作成等の体制の整備)の取組としても整理できる。どの項目に当てはめるかは、指定権者の案内で確かめる。

カスタマーハラスメントの定義と介護での典型例

指針では、職場におけるカスタマーハラスメントを「①顧客等の言動であって、②労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの」とし、3つの要素をすべて満たすものとしている。顧客等には、施設・サービスの利用者とその家族が含まれ、電話やSNSでの言動も含まれる。介護での典型例は次のとおり。

類型例
身体的攻撃介助中に叩く、物を投げる
精神的攻撃大声で威圧する、人格を否定する発言、長時間の拘束
性的言動身体に触る、性的な発言、入浴介助時の要求
過剰な要求契約外のサービスの強要、深夜の電話、職員の指名
家族からの攻撃職員個人への執拗なクレーム、SNSでの中傷
ミナ

深夜の電話や職員の指名まで、カスハラに入るんですね。

ジムチョー

契約で決めたサービスを大きく超える要求にあたることがあるんだ。判断の軸は、社会通念上許容される範囲を超えて、職員の就業環境を害しているかどうかだよ。

ミナ

家族がSNSで職員を中傷する場合も、同じように扱いますか?

ジムチョー

家族も「顧客等」に入るし、SNSでの言動も含まれるよ。利用者本人だけでなく家族の言動も、方針と対応手順の対象に含めておこう。

苦情のすべてがカスハラに当たるわけではない。指針のリーフレットは、障害のある人が不当な差別的取扱いをしないよう求めることや、社会的障壁の除去を求める意思を表明すること自体はカスハラに当たらないとしている。認知症の症状による言動とハラスメントの境界も難しい。判断はその言動の目的や経緯、頻度、利用者の心身の状況などを総合的に見て行い、症状による言動であっても、記録を残し、複数対応や担当変更で職員を守る措置はとる。

5つの措置の整え方

ミナ

相談窓口は管理者でいいですか?

ジムチョー

管理者ともう1人、事務長や法人本部の複数窓口にしておこう。管理者が当事者になる場合に備えるためなんだ。

ミナ

外部の相談窓口も置いたほうがいいですか?

ジムチョー

社労士や顧問弁護士と契約して、外部窓口を置く事業所もあるよ。まずは内部の2人を決めて、外部は必要に応じて検討するといいね。

1. 方針の明確化と周知

文書書くこと
ハラスメント防止方針(指針)カスハラを含めた定義、毅然と対応して職員を守るという姿勢、あらかじめ決めた対処の内容、相談窓口、対応の流れ
就業規則ハラスメントの禁止、懲戒の規定(職員間)
重要事項説明書・契約書利用者・家族に対して、職員へのハラスメント行為があった場合の対応(改善を求める、サービスの中止・契約解除の可能性)
掲示・ホームページ方針の公表

2. 相談窓口

管理者と、管理者以外の1人(事務長や法人本部)の複数窓口にする。管理者がハラスメントの当事者になる場合に備える。外部窓口(社労士、法人の顧問弁護士)を契約で置く事業所もある。窓口の担当者には、話の聞き方と記録の取り方を研修で身につけてもらう。

3. 起きたあとの対応

順番内容記録
1職員からの報告(当日中)。事実(日時・場所・言動・状況)を記録ハラスメント報告書
2管理者が職員の安全を確保(複数対応、担当変更、訪問の一時停止)対応記録
3事実確認(利用者・家族への聞き取り、他の職員の証言)調査記録
4利用者・家族への申し入れ(改善の要請、契約上の対応の説明)。ケアマネジャー・保険者と共有面談記録、連絡記録
5改善しない場合はサービスの中止・契約解除の検討。暴力は警察への相談判断の記録
6職員のケア(面談、産業医、休暇)と再発防止策フォロー記録
ミナ

職員から報告を受けたら、最初に何をすればいいですか?

ジムチョー

その日のうちに、日時・場所・言動・状況を報告書に残してもらうんだ。そのうえで管理者が、複数対応や担当変更で職員の安全を先に確保しよう。

4. 悪質なカスハラへの対処の方針

暴力、脅迫、執拗な要求の繰り返しなど、特に悪質な場合の対処をあらかじめ決め、職員に知らせ、その対処を実行できる体制にしておく。介護では、改善を求める文書の出し方、サービスの中止・契約解除を判断する基準と手順、警察への相談、ケアマネジャー・保険者との共有を決めておく。運営基準は正当な理由のないサービスの提供拒否を禁じているので、中止や契約解除は、改善を求めても続く場合の最後の手段とし、経緯の記録とケアマネジャー・保険者との相談を残して判断する。

5. 相談者の保護

相談した職員の情報を必要最小限の範囲で扱うこと、相談したことを理由に不利益な扱いをしないことを方針に書き、研修で知らせる。

計算例:対策の費用と離職のコスト

費用は、職員30人の事業所の例。

項目金額
方針・規程の整備(社労士への依頼)50,000〜100,000円
研修(年1回、職員30人 × 2時間 × 1,500円)90,000円
外部相談窓口の契約(任意)年間 60,000〜120,000円
合計(初年度)200,000〜310,000円
介護職を職業紹介で1人採用し直す手数料(厚生労働省が公表している介護分野の平均、令和5年度実績)551,000円
訪問を断られて失う利用者1人分の月の報酬(訪問介護の身体介護30分以上1時間未満 387単位 × 週3回=月13回、その他地域、処遇改善加算Ⅰロ 28.7%を含む)387 × 13 × 10.00円 × 1.287 = 約65,000円/月

ハラスメントが原因の離職を年1人防げれば、対策の初年度の費用は回収できる。規程の整備と外部窓口の費用は依頼先で変わるので、見積もりで確かめる。

ミナ

対策の費用が初年度で20〜31万円、紹介で1人採用し直すと手数料だけで平均55万円ですね。

ジムチョー

ハラスメントが原因の離職を年1人防げれば回収できるんだ。訪問介護なら、複数訪問にする追加人件費と、その利用者から得る月の報酬と、職員の離職リスクを並べて判断しよう。

ミナ

費用のうち、毎年かかり続けるのは研修と外部窓口の契約ですね。

ジムチョー

そうだね。方針や規程の整備は初年度だけで、研修は年1回ずつかかっていくんだ。外部窓口は任意だから、内部の窓口で回るかを見てから決めよう。

実務の手順(誰が・いつまでに・どの帳票で)

時期作業担当帳票
施行日(2026年10月1日)までカスハラを含めたハラスメント防止方針を作り、あらかじめ決めた対処の内容と一緒に職員に知らせる事務長防止方針、周知の記録
同相談窓口(内部2名、必要なら外部)を決め、職員に知らせる管理者窓口一覧、周知の記録
同悪質なカスハラへの対処の方針(中止・契約解除の判断基準、警察への相談)を決める事務長・管理者防止方針
順次(説明と同意に時間がかかる)重要事項説明書・契約書にハラスメント時の対応条項を追加。既存利用者には説明と同意管理者重要事項説明書
順次就業規則の懲戒規定の見直し(職員間のハラスメント)事務長・社労士就業規則
施行後できるだけ早く全職員と相談窓口の担当者に研修。新規採用者は採用時に実施管理者研修記録
発生の都度報告書の作成、対応、記録管理者ハラスメント報告書、対応記録
年1回相談件数・対応結果の集計と方針の見直し事務長集計表
処遇改善計画書の作成時相談窓口やトラブル対応の手順を、職場環境等要件の⑬・⑯の取組として書けるか確かめる事務長別紙様式2
ミナ

すでに契約している利用者さんにも、重要事項説明書の変更を説明するんですか?

ジムチョー

そうなんだ。追加した対応条項は、既存の利用者にも説明して同意をもらっておこう。サービスを止める根拠が契約にないと、一方的な打ち切りになってしまうからね。

よくあるつまずき

ミナ

認知症の症状で叩かれるのは、ハラスメントとは言えないですよね。

ジムチョー

境界は難しいんだ。それでも記録は残して、複数対応や担当変更で職員を守る措置は必要になる。「仕方ない」で記録しないと、対応も再発防止もできなくなるよ。

ミナ

訪問介護で、ハラスメントがあった利用者さんのところへ1人で行き続ける場合はどうですか?

ジムチョー

それは避けたほうがいいね。指針も、できるだけ1人で対応させないことを対処の例に挙げているんだ。複数での訪問か担当変更に切り替えよう。

  • 職員間のハラスメント規程しかない。カスハラは別の措置義務。方針と手順に利用者・家族からの言動を含め、悪質な場合の対処も決める
  • 重要事項説明書に何も書いていない。サービス中止の根拠が契約にないと、対応が「一方的な打ち切り」になる
  • 「認知症だから仕方ない」で記録しない。記録がないと対応も再発防止もできない。症状による言動でも記録し、ケアの見直しにつなげる
  • 管理者だけが窓口。管理者が当事者の場合に相談先がない。複数窓口にする
  • 1人訪問を続ける。ハラスメントが起きた利用者に1人で訪問させ続けると、職員の安全を守れず、安全配慮義務の点でも問題になりうる
  • 報告した職員に「我慢して」と言う。相談を理由とする不利益な扱いの禁止に反し、離職にもつながる

経理・管理側の視点

ミナ

ハラスメント対策の効果は、数字だとどこに出てくるんですか?

ジムチョー

離職率と欠員のコストに出てくるんだ。費用は初年度で20〜31万円ほどだから、離職がどれだけ減ったかと並べて見ていこう。

ハラスメント対策の費用は初年度で20〜31万円ほどで、効果は離職率と欠員コストに出る。訪問介護でハラスメント対応のために複数訪問にすると人件費が倍になるが、その利用者の契約を続けるかどうかの判断材料にもなる。1人の利用者から得る月の報酬と、対応にかかる追加人件費と職員の離職リスクを並べるのが経理の役割になる。

カスハラの措置義務は労働施策総合推進法の義務で、都道府県労働局の助言・指導などの対象になる。介護の運営基準のハラスメント防止の措置は、運営指導で確認される。方針・窓口・手順・記録がそろっていれば、どちらで聞かれても説明できる。

ミナ

方針・窓口・手順・記録の4点がそろっていれば、労働局からも運営指導でも説明できるんですね。

ジムチョー

施行は10月1日だから、まだなら方針を決めて職員に知らせることと、相談窓口を決めることから先に済ませよう。重要事項説明書の条項は、利用者への説明と同意に時間がかかるから、並行して進めておこう。

出典

記事中の計算例は概算です。実際の算定・請求は自治体および国保連への確認が必要です。制度に関する記述は執筆時点の情報に基づきます。