バックオフィス実務

介護のBCP(業務継続計画)とは?未策定減算1%・3%と作り方、研修・訓練の頻度

「BCP」の積み木

結論(この記事でわかること)

ミナ

BCPは去年作ったので、もう大丈夫ですよね?

ジムチョー

作るだけでは足りないんだ。感染症と自然災害の両方の計画が要って、どちらかが未策定だと減算になるよ。通所なら1%、特養なら3%だね。

ミナ

研修と訓練をしていない場合も、減算になるんでしょうか?

ジムチョー

そこは分けて考えよう。研修と訓練の未実施は減算の要件ではないけれど、運営基準の義務だから運営指導で指摘されるんだ。まず両方の計画がそろっているか確かめておこう。

介護事業所のBCP(業務継続計画)は、2024年4月から策定が義務になった。感染症と自然災害の両方について計画を作り、その計画に従って必要な措置を講じる。あわせて、従業者への周知、研修と訓練の定期的な実施、計画の見直しも運営基準で義務づけられている(訪問介護なら運営基準第30条の2)。感染症と自然災害の計画は、1つにまとめて作ってもよい(解釈通知)。どちらかが未策定なら、業務継続計画未策定減算になる。

サービス減算率研修・訓練の頻度
特養、老健、介護医療院、特定施設入居者生活介護、認知症グループホーム(地域密着型の特養・特定施設を含む)所定単位数の3%研修年2回以上、訓練年2回以上
通所系、訪問系、短期入所、小規模多機能・看護小規模多機能、居宅介護支援、福祉用具貸与など(居宅療養管理指導と特定福祉用具販売は対象外)所定単位数の1%研修年1回以上、訓練年1回以上

減算の対象になるのは、感染症と災害のどちらか(または両方)の業務継続計画が未策定の場合と、策定した計画に従った必要な措置が講じられていない場合。周知・研修・訓練・見直しをしていないことは、減算の算定要件ではないとQ&Aに示されている(令和6年度介護報酬改定Q&A Vol.1 問164、Vol.6 問7で修正)。ただし、これらは運営基準上の義務なので、していなければ運営指導で指摘される。

減算になったら、体制等状況一覧表の「業務継続計画策定の有無」を「減算型」にして届け出る。減算は、基準を満たさない事実が生じた月の翌月(その事実が月の初日に生じたなら当月)から、基準を満たす状態になった月まで、利用者全員の所定単位数にかかる。運営指導で未策定が分かった場合は、見つかった時点ではなく「基準を満たさない事実が生じた時点」までさかのぼって減算される。届け出ずに通常どおり請求していた分は、差額を返すことになる。

経過措置はすでに終わっている。訪問介護などの訪問系、福祉用具貸与、居宅介護支援は、2025年4月から適用された。それ以外のサービスは2024年4月(通所リハビリテーションは6月)に始まり、感染症の予防及びまん延の防止のための指針と非常災害に関する具体的計画を整えている事業所には、2025年3月31日まで減算を適用しない経過措置があった。2026年9月現在は、どのサービスも経過措置なしで対象になる。

基本報酬(加算を除く)が月400万円の通所介護なら、1%の減算は月4万円、年48万円。入所者80人の特養(基本報酬が月およそ1,900万円)なら、3%で月約58万円、年約690万円になる(前提は下の計算例)。策定の手間を仮に40〜80時間と見積もっても、減算と比べれば作らない理由はない。

BCPに書くこと

「防災マニュアル」と書かれたノート
ミナ

厚労省のひな形を使って、事業所名を変えれば早いですよね。

ジムチョー

それだと運営指導で実効性を問われてしまうんだ。埋めるべきは、責任者の氏名、備蓄の数量、連絡先、参集の基準、優先業務の順番。自社固有の数字と名前が入っているかを見よう。

ミナ

備蓄の数量は、どのくらいを目安に書けばいいですか?

ジムチョー

自然災害のほうは、水・食料・衛生用品などを被災後3日分そろえるのが目安だよ。感染症のほうはマスクや手袋、ガウン、消毒液の量を書いておこう。

厚生労働省のガイドラインとひな形は、感染症と自然災害で構成が分かれる。ガイドラインは「感染症発生時の業務継続ガイドライン」(第2版)と「自然災害発生時の業務継続ガイドライン」(第1.1版)で、どちらも令和6年3月に更新されたもの。2026年9月時点で、厚生労働省のページに掲載されているのはこの版になる。ひな形はExcelで、感染症は入所系・通所系・訪問系の3種類、自然災害は共通版(通所・訪問・居宅介護支援の固有部分つき)があり、例示入りのひな形(令和5年度版)も公開されている。

自然災害BCP

章内容事業所で埋めるもの
総論基本方針、推進体制、リスクの把握(ハザードマップ)、優先業務の選定、研修・訓練、見直し責任者と代行者、想定災害(地震・水害)、優先する業務(食事・排泄・与薬など)
平常時の対応建物・設備の安全対策、電気・ガス・水道が止まった場合の対策、通信、システム、衛生(トイレ等)、必要品の備蓄、資金手当て備蓄リスト(水・食料・看護・衛生用品などの3日分)、非常用電源、通信手段、火災保険・地震保険の補償と手元資金
緊急時の対応BCP発動基準、行動基準、対応体制、対応拠点、安否確認、職員の参集基準、避難場所・避難方法、重要業務の継続、職員の管理(休憩・宿泊)、復旧対応発動の判断者、安否確認の方法(連絡網・安否確認システム・SNS)、参集の基準(震度、通勤時間、日中と夜間で分けて決める)
他施設との連携連携体制の構築(協議・協定)、連携対応(事前準備・利用者情報の整理・共同訓練)近隣施設・法人内の応援協定
地域との連携被災時の職員の派遣、福祉避難所の運営自治体との協定

備蓄は、行政の支援が始まる目安とされる被災後3日目まで、自力で業務を続けられる量が基準になる。ガイドラインの数量の考え方は、水が1人1日3リットル(3日で9リットル)、食料が1人1日3食(3日で9食)、毛布が1人1枚で、1人あたりの数量に日数を掛けて出す。賞味期限や使用期限があるので、担当者を決めて定期的に買い替える。

感染症BCP

章内容事業所で埋めるもの
平常時の対応体制構築・整備、感染防止に向けた取組の実施、防護具・消毒液等備蓄品の確保、研修・訓練の実施、BCPの検証・見直し推進体制(意思決定者と各業務の担当者)、連絡先と連絡フロー、備蓄リスト(マスク・手袋・ガウン・消毒液の量と保管場所)
初動対応(感染疑い者の発生時)第一報、感染疑い者への対応、消毒・清掃等の実施、検査報告先(管理者、医療機関や受診・相談センター、法人、指定権者、家族。通所・訪問系は担当の居宅介護支援事業所も)と報告の手順
休業の検討(通所系のひな形にある章)休業を検討する指標、訪問サービス等の実施検討、居宅介護支援事業所との調整、利用者・家族への説明、再開基準休業を判断する人と基準、利用者・居宅介護支援事業所への連絡方法、再開の目安
感染拡大防止体制の確立保健所との連携、接触者への対応、職員の確保、防護具・消毒液等の確保、情報共有、業務内容の調整、過重労働・メンタルヘルス対応、情報発信(入所系・通所系・訪問系で持つ項目が少し違う)保健所・指定権者の連絡先、応援職員の確保先、優先業務の一覧(入所系はゾーニングと個室対応も)
ミナ

通所のひな形には、施設にない章があるんですね。

ジムチョー

通所系には「休業の検討」の章があるんだ。誰が休業を判断して、利用者や居宅介護支援事業所にどう連絡するかまで書いておこう。

ひな形をそのまま使うと「事業所名だけ変えたBCP」になり、運営指導などで実効性を問われる。策定済みの事業所についても、地域の特性に合わせた実効的な内容になるよう、指定権者が継続的に指導することとされている(令和6年度改定の改定事項)。埋めるべきは、責任者の氏名、備蓄の数量、連絡先、参集基準、優先業務の順番といった自社固有の数字と名前。

研修と訓練

消火器
項目内容記録に残すこと
研修BCPの内容を従業者に周知し、平常時の対応の必要性と緊急時の対応を理解してもらう。頻度は施設・居住系が年2回以上、通所・訪問系などが年1回以上。新規採用時の別の研修は、施設・居住系では実施すること、通所・訪問系などでは実施が望ましいとされている実施内容(日時、参加者、内容、資料)。通知は研修の実施内容の記録を求めている
訓練(机上訓練)事業所内の役割分担の確認、感染症や災害が発生した場合に実践するケアの演習など。シナリオを用意して進める日時、参加者、シナリオ、気づいた課題
訓練(実地訓練)安否確認の連絡網の実施、避難の実施、感染疑い者発生時のゾーニングの実施など。机上と実地を適切に組み合わせる同上
見直し訓練で出た課題や最新の知見をBCPに反映。定員・職員数・設備の変更も反映改訂日、改訂内容
ミナ

研修と訓練は、実施しただけでは足りないんですか?

ジムチョー

研修は、実施内容の記録も通知で求められているんだ。運営指導では、研修と訓練の計画と実績がわかるものを確認されるから、日時、参加者、内容を残しておこう。

ミナ

年度の途中で入った職員は、次の研修まで待ってもらえばいいですか?

ジムチョー

施設や居住系では、新規採用時に別に研修をすることが通知で求められているんだ。通所や訪問でも望ましいとされているから、採用したときに研修をしておこう。

通知では、感染症のBCPの研修・訓練は感染症の予防及びまん延の防止のための研修・訓練と、災害のBCPの訓練は非常災害対策に係る訓練(避難訓練など)と、一体的に実施しても差し支えないとされている。ただしBCPの訓練は「業務の継続」が主題なので、避難した後にどう業務を続けるかを含める。訓練の方法は机上でもよいが、机上と実地を適切に組み合わせるのが適切とされ、研修・訓練は全ての従業者が参加できるようにすることが望ましい。

月あたりいくら減るか(計算例)

防災リュック

以下は例として、1単位10円(地域区分「その他」)で計算する。特養は、入所者80人が月30日入所し、1人1日800単位(従来型個室の要介護4が802単位)と仮定した。減算率は基本報酬の単位数にかけて出している(算定構造では、この減算は基本報酬の欄に置かれている)。通所介護と訪問介護の減算額は、加算算定シミュレーターの減算の欄でも出せる。

事業所月間の基本報酬(加算を除く)減算率減算額(月)減算額(年)
通所介護400,000単位(400万円)1%40,000円480,000円
訪問介護300,000単位(300万円)1%30,000円360,000円
特養(入所者80人)1,920,000単位(1,920万円)3%576,000円6,912,000円

BCPの策定と運用のコストは、人件費を1時間1,500円と仮定して見積もる。策定は、ひな形を使って管理者・事務長が40〜80時間かけると仮定して60,000〜120,000円。研修と訓練は、施設・居住系なら年2回ずつ(計4回)、各2時間、職員30人が全員参加すると年間240時間で36万円になる。通所・訪問系なら年1回ずつ(計2回)、各2時間、職員10人で年間40時間、6万円。特養の減算は1か月で576,000円なので、1か月分で策定と1年分の運用(420,000〜480,000円)が賄える。通所介護でも、初年度に策定とあわせて12〜18万円で、年48万円の減算より小さい。

減算は、所定単位数に減算率をかけた単位数を差し引く。処遇改善加算の単位数は、基本サービス費に各種加算減算(処遇改善加算を除く)を加えた1か月の総単位数に加算率をかけて出すので(老発0313第6号)、減算後の単位数がもとになり、減算の月は処遇改善加算も連動して減る。影響は減算額だけでは済まない。

ミナ

特養だと、1か月分の減算で策定と1年分の運用が賄えるんですね。

ジムチョー

例では、策定が60,000〜120,000円、研修と訓練が年間36万円で、特養の減算は1か月で576,000円なんだ。減算と比べれば、作らない理由はないよ。

ミナ

策定は初回だけでも、研修と訓練の時間は毎年かかり続けるんですよね。

ジムチョー

そうだね。そこは毎年の運用コストとして、参加する時間分の人件費を年間の予算に入れておこう。

実務の手順(誰が・いつまでに・どの帳票で)

ミナ

BCPを作るとき、最初に決めることは何ですか?

ジムチョー

責任者と代行者、担当を決めて、ハザードマップで事業所のリスクを確かめるところからなんだ。初版ができたら全職員に研修して、委員会か会議で承認しておこう。

時期作業担当帳票
策定時推進体制(責任者・代行者・担当)を決め、ハザードマップでリスクを把握管理者推進体制の構成メンバー(ひな形の様式1)
策定時ひな形に自社の数字・名前・連絡先を入れて初版を作成管理者・事務長BCP(自然災害・感染症)
策定後、年1回以上(施設・居住系は年2回以上)全職員に研修。委員会または会議で承認管理者研修記録、議事録
年1回以上(施設・居住系は年2回以上)訓練(机上・実地)を実施し記録管理者訓練記録
訓練後・定期的に課題をBCPに反映して改訂。改訂履歴を残す管理者改訂履歴
職員数・定員・設備の変更時該当箇所を改訂事務長改訂履歴
減算に該当した場合体制等状況一覧表の「業務継続計画策定の有無」を「減算型」にして届出(期限は指定権者の案内に従う)。解消したら「基準型」に戻す届出事務長体制等状況一覧表
運営指導時BCP本体、研修・訓練の計画と実績、改訂履歴を提示事務長一式

よくあるつまずき

ミナ

毎年の避難訓練で、BCPの訓練も兼ねられますか?

ジムチョー

通知では、災害のBCPの訓練を非常災害対策の訓練と一体的に実施してもよいとされているんだ。ただBCPの訓練は「業務の継続」が主題だから、避難したあとにどう業務を続けるか、安否確認や優先業務の確認を含めておこう。

ミナ

定員や職員数が変わった場合は、BCPも直すんですか?

ジムチョー

直しておこう。古い前提のままだと、訓練をしても計画どおりに動けないからなんだ。変更のたびに該当箇所を改訂して、改訂履歴に残しておくといいよ。

  • ひな形の事業所名だけ変えている。責任者・備蓄数量・連絡先が空欄のBCPは、実効的な内容とは言えず、指定権者の継続的な指導の対象になる
  • 感染症だけ作って自然災害がない。両方が必要。どちらか一方の未策定でも減算
  • 研修・訓練の記録がない。研修・訓練の未実施そのものは減算の要件ではないが、運営基準の義務なので運営指導で指摘される。研修は実施内容の記録も通知で求められている
  • 高齢者虐待防止措置未実施減算と取り違える。虐待防止のほうは、研修を定期的に実施していないことも減算の要件になる。BCPの減算は研修・訓練が要件ではなく、未策定が分かると事実が生じた時点までさかのぼる 虐待防止の減算の要件と期間は高齢者虐待防止措置未実施減算と身体拘束廃止未実施減算にまとめた。
  • 訓練が避難訓練だけ。BCPの訓練は業務継続が主題。安否確認や業務の優先順位の確認を含める
  • 減算の届出をしていない。未策定のまま通常どおり請求を続けると、後から事実が生じた時点までさかのぼって減算され、差額の返還になる。策定できていなければ、先に「減算型」で届け出る
  • 定員や職員数が変わっても改訂しない。古い前提のBCPは訓練で機能しない

経理・管理側の視点

ミナ

BCPは、減算を避けるための書類というわけではないんですね。

ジムチョー

そうなんだ。災害のときに売上と職員をどう守るかを書く計画だよ。だから経理の目で見ておきたい章もあるんだ。

BCPは減算を避けるための書類ではなく、災害時に売上と職員を守るための計画で、経理側の関心は「資金」と「備蓄」の章にある。災害で1か月休業した場合の固定費(人件費+家賃)と、国保連の入金が止まる期間(サービス提供がなければ翌々月の入金がない)を計算し、手元資金で何か月耐えられるかをBCPに書く。

備蓄は被災後3日分が目安で、1人1日の水3リットル・食料3食の考え方を入所者80人に当てはめると、3日で水720リットル、食料720食になる。単価を掛けて予算に入れ、消費期限に合わせて毎年更新する。資金の章では、火災保険・地震保険の補償の範囲(いまの火災保険で水害を補償できるか、地震保険は事業用物件で付けられない地域もある)と、緊急時の手元資金も確かめる。

ミナ

経理としては「資金」と「備蓄」の章を見ればいいんですね。

ジムチョー

災害で1か月休業したときの固定費と、国保連の入金が止まる期間を計算して、手元資金で何か月耐えられるかを書いておこう。備蓄の更新費用も毎年の予算に入れておくといいよ。

出典

記事中の計算例は概算です。実際の算定・請求は自治体および国保連への確認が必要です。制度に関する記述は執筆時点の情報に基づきます。